イラク派遣
2004.03.03
自衛隊がイラクへ赴いてひと月たつ。気になることがいくつかある。
首相の談話に戦闘地域の映像をかぶせ、こんなニュースを流したテレビ局があった。
小泉首相 「危険を回避できる唯一の組織である自衛隊をイラクへ送り…」
ナレーション「果たして、危険はないのだろうか」
だから首相も危険だって言っているのだ。人の話をよく聞けとガッコで習わなかったか?
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記者に危険な地域はどこかと問われ、「わたしに分かるわけないじゃないか」と放言した文民統制下の最高責任者・コイズミもひどいが、記者もためにする誘導質問ばかりでは、構えられてこのようにナメられた答えをされてもしかたない。記者の質が低下しているのではないか。
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2月初めの朝日新聞。「声」という投稿欄のタイトルカットに、逆さにして地面に突き刺した小銃とそれにひっかけたヘルメットを使っていた。戦死者の墓標だ。ごていねいにそのイラストには「異国の空の下」とタイトルがついていた。自衛隊本隊がまさに日本を出発しようというときにである。
この新聞は派遣反対のスタンスをとっている。イラク派遣に賛成するのも反対するのも自由だ。
ただ派遣される隊員たちには妻や子や家族がいるのだ。このイラストは「イラクへ行く君らはこういうふうになるんだよ」と言っているのに等しい。命を賭して征く者、無事を祈り送る者の心情を無視してはいないか。
自衛隊基地の周辺でデモやシュプレヒコールを繰り返していた人たちでも、テレビなどで見る限り、隊員たちやその家族に対しては最低限の配慮はしていたように思う。この紙面には明らかにそういった配慮が欠けていた。
この件で、靖国神社問題や従軍慰安婦問題など、こうと思い詰めると頭に血が昇り、相手かまわずむちゃくちゃを言い出す会社の近所のコーヒーショップの奥さんのことを思い出した。
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派遣の賛否を問う世論調査で賛成と答える人が増えている。
この世論の変化は、いったん行くと決まった以上は無事を祈って暖かく送りたいという、しごく自然な人間の感情から起きていると思う。
無論、無事を祈ることと派遣の賛否は別の問題だが、マスコミはその点をきっちり検証しようとしているのだろうか。
小泉政権がねらっているのは、見切り発車で積み上げられた既成事実と心情論で派遣を世論として追認させることだ。国民の意識を都合よく操る方法についてだけは、政治権力はいつも巧妙でち密なのだ。
(了)