No more saying 'No' (もう「NO」とは言わない)
2005.06.04
夜、ナガセおとーさんからSOSの電話。出張先で撮ったデジタル写真が約500カット消失したとのこと。おとーさんの撮った写真ではないのだが、急いで社へ戻ってデータ復旧。1GBという大容量のCF(コンパクト・フラッシュ)だったので、結局、夜半までかかってしまった。
幸い500カットを超えるデータの95%以上のサルベージに成功した。
こうした復旧作業は、この2年でもう20件近くなった。勝率は約9割5分。
データ(写真とか原稿)に関して消失事故が起こると、 技術者はみんな「バックアップは? してないならあきらめてもう一度入力(写真なら撮影)してください」と言う。現実には大変な手間だし、再入力する時間はなく、写真などは同じカットが撮れるわけがない。
今でもデジタル媒体は取り扱いがデリケートなのには変わりないし、バックアップも当然しておくべきと思う。 それが仕事で使う上での保険だとも思う。
だが、デジタルデバイス(パソコン、デジカメ、電子手帳など)が本来持っているべき機能ではないか?大事なことが抜け落ちて技術が進歩しているような気がする。
ただ、現状を考えるとバックアップ、事故の可能性についての最低限の教育はほどこすべきだ。
無理な要求にも「ノー」と言わない技術者をめざした時もあった。今日のような離れ業がいつも出来るという自信はない。技術の現場からは離れたが、他人、特に初心者のメディアやデータの破損・復旧に関してベストを尽くす、シーマンシップ(※)は持っていたいなと思う。
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今でもすごく印象に残っている話がある。父親がソニーに託した息子の遺品のメモリースティックから写真が復元されたという新聞記事を読んだ時、しばらく身体の震えが止まらなかった。
2001年、ハワイ沖で米原潜に衝突され、宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」が沈没したという事件を覚えている人も多いだろう。
実習生ら9人が亡くなるといういたましい事故だったが、これには後日談がある。水深600メートルの深海に8カ月以上沈んでいたデジカメが米軍のダイバーに回収されたのだ。 普通デジカメは水に弱く、水没なら100%全損。それも海水に浸かっていたのだ。
現場のとっさの判断だろうが、 引き上げられたデジカメを即座に海水の入った密封パックに入れて持ち帰った担当者の機転のたまものだ。
このデジカメはただひとり行方不明のままの実習生、水口峻志君が携帯していたもので、託されたソニーも面子をかけての総力戦だったと聞く。復元された写真の中には、事故の2日前、彼の誕生日に撮影された笑顔の記念写真などもあったそうだ。
この件でソニーは沈黙を続けている。腐食の進んだメモリースティックを地道な手作業でデータを取り出したようだ。よくぞやってくれた。悪条件下でもあきらめなかった技術者たちに敬意を表したい。
※シーマンシップという言葉を使ったが、命がけでコトに当たる、ホンモノの海の男たちには怒られるかも。